図面では見えなかったこと

図面では見えなかったこと

3Dプリントは、数値で形を作れる分、失敗の原因も数値で説明がつきます。
感覚のズレではなく、計算のズレとして残ります。
だからこそ、直したあとに「なぜ起きたか」まで言葉にできます。
ここでは、そうやって直してきたことをいくつか記録しておきたいと思います。

印刷の向きの重要性

壁のような薄いパーツは、寝かせて印刷したくなります。
そのほうが早いですし、直感的にも安定しそうに見えます。
ただ、斜めの面が水平に近づくほどオーバーハングになり、サポート材が必要になります。
サポートを剥がした跡は表面に残りますし、層の幅も広がるので、なめらかさに欠けます。

逆に、直角に近い向きで印刷すれば、サポートは不要になり、0.2mmの層が少しずつ横にずれていくだけなので、表面はむしろなめらかになります。

これが特に効くのが、スライドして組み合う構造でした。
建築模型で使った蟻継ぎ構造では、部材同士がスライドして噛み合うため、接触面はできるだけ滑らかでなければなりません。
印刷の向きひとつで、この滑らかさが決まります。
最終的には、設計の段階でオーバーハングそのものをどれだけ減らせるかという問題に戻ってきます。

滑りをさらによくするために、プラスチック用の磨きクロスで接触面を磨く工程を入れています。
底蓋のバヨネット構造も、この磨きを経て初めてスムーズに回るようになりました。

クリアランスの考え方

パーツがはまり合う部分の隙間(クリアランス)は、水平に配置している面同士なら比較的コントロールしやすいものです。
問題は垂直に配置する場合、特に円形の穴を開けるときです。
頂点にあたる部分がオーバーハング状態になるため、そこだけわずかに垂れてしまいます。
図面どおりの寸法では、実際にはきつすぎてはまらないことがあります。

経験上、水平方向にはめ合う場合は対象物より+0.1mm、垂直方向にはめ合う場合は+0.2mmのクリアランスを見ています。
同じ「隙間0.1mm」という感覚で設計すると、向きが違うだけで結果が変わってしまいます。

肉厚と段差

曲線や斜線を含む形状で、外側の面を単純に縮小しただけの内側シェルを作ると、見た目には気づかないくらいの差で肉厚が変わっていきます。
厚みが変わるということは、印刷時に組まれる壁の本数(1周、2周、3周…)がどこかで切り替わるということで、その切り替わる高さに横線のようなものが浮き出てしまいます。
これではランプシェードとしては美しくありません。

原因は、内側の面を外側と同じ角度でオフセットしていなかったことでした。
真のオフセットではなく、単純にひと回り小さくしただけだったのです。
厚みを一定に保つシェル生成に作り直すことで、この線は消えます。
厚みは押出線幅の整数倍に合わせておくと、壁の本数が予測どおりに切り替わるので、さらに安定します。

鋭角と陰影

シェードの形状が上部でどこかに収束して閉じる場合、収束点に近づくほど、そこは薄い壁同士の交わりではなく、肉が詰まったソリッドな塊になっていきます。
この塊の角度が鋭いほど、光がそこを通り抜ける距離は伸びます。
角度がおよそ50°まで鋭くなると、光が通る距離は肉厚のおよそ2.4倍になり、結果としてその部分だけ暗い線として見えてしまいます。

SNITTのように上部を完全に解放している形状では、そもそも収束点ができないため、この問題自体が起こりません。
これは強度や印刷のしやすさの話ではなく、点灯したときにどう見えるかという、光を通す製品ならではの問題でした。
角にわずかなフィレットを付けるか、鋭い頂点そのものを平面でカットすることで、影ではなく柔らかいハイライトに変わります。

フィラメントの乾燥不足は品質に直結する

フィラメントが湿気を吸っていると、印刷中にわずかに気化して、表面がボコボコになったり、糸を引いたりします。
特に細かい凹凸をつけるファジースキンのような設定では、この乱れが目立ちやすくなります。ノズルから出る樹脂がすでに均一でないところに、さらに意図的な微振動を重ねているようなものだからです。

見た目の派手さがない分、原因を疑うのが遅れやすい失敗でもあります。
設定を変える前に、まずフィラメントの状態を疑うべきでした。
基本的には常時乾燥を入れています。

ジョイントは耐久性が弱い

PLAは引っ張る力には強いものの、衝撃には弱い素材です。
薄いクリップやピンでパーツ同士を留める構造は、簡単に折れてしまいます。
何度か壊してから、接続はマグネットに切り替えました。
コストは上がりますが、壊れやすい部品を作らないことのほうを優先しました。
副産物的にシェードの向きを変えらるので色んな表情を出せるようにもなりました。

磁石の極性

シェードとベースの接続には磁石を使っていますが、組み立てのときにたまにプラスマイナスを逆に入れてしまうことがありました。
磁石自体は見た目で極性が分かりません。
そこで、極性が一目で分かる治具のようなものを作り、組み立て時に磁石を間違えて配置しないようにしました。
地味ですが、量産していく上では効いてくる工夫だと思っています。


図面の上では正しくても、実際にプリントしてみて初めて分かることがあります。ここに挙げたのは、そのすべてに共通する一つのことです。数値で形を作っているからこそ、直した理由も数値で説明できます。感覚で「なんとなく直った」では終わらせず、次の形にそのまま活かせる知見として残しておきたいと思います。